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「でも、天国では神様より先に天使と会えるものだと思っていたのにな…」
私はぼんやりと彼の目線を追いながら、粒やいた。
「天使に会いたいの?」
私はふふっと笑った。
「昔ね。ずっと小さい頃に、絵本で読んだの。
天国に行く時は、真っ白い翼を持った天使様が、迎えに来てくれるって」
私は死ぬ直前までそれを信じていた。
死ぬ時は天使が来てくれるから怖くなんかないと。
本当は、死がとても怖かったから、何度も何度も心の中で繰り返していたんだ。
『怖くない!大丈夫、大丈夫、大丈夫…天使が迎えに来てくれるから…死ぬのは怖いことなんかじゃない』
けれど、現実の死はあまりにあっけなくて、病室に綺麗な天使が舞い降りることも無かった。
私は、そっと目の前の男の子を見た。
「始めは、貴方が天使なんだと思ったわ」
(あまりに優しく綺麗な顔で、真っ白な服を着ていたから)
「何で、僕は天使じゃないと思ったの?」
「だって、翼が無いもの」
私の言葉を聞いた少年は、手を口に当ててアハハと笑った。
「じゃあ、神様に会う前に、沢山の『天使』に会わせてあげる。」
そう言ったかと思うと、少年は私の手を引いて、いきなり走りだした。
青と白の境界線へ向かって、どこまでもどこまでも走る。
足が軽い。風になったように速い。
こんなに走っているのに、心臓が苦しくない。
最後は病院の庭を散歩することすら出来なかった私が、こんなに速く走っているなんて、信じられない。
走りながら私は、右手で胸に触れてみた。
一度止まったはずなのに、トクトクという音が伝わってくる。
でもそれ以上に、初めて男の子と繋いだ左手の方が、温かい鼓動を打っているような気がした。
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