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コツ…
コツ…
月が雲に隠れ、
真っ暗な闇のなかを
男は自宅に向かって帰っていた。
思っていたよりも
仕事が長引いて遅くなってしまい、
周りの民家は寝静まって、
男の足音だけが響いている。
早く帰りたく、近道の公園をぬけて行こうと考えた男は、
右に曲がり公園に入っていった。
チカチカと、消えそうに点滅する
街灯の小さな明かりを頼りに、
男は遊具にぶつからないように周りに気をつけながら歩く。
昼間の輝きが
微塵も残っていない夜の公園は、
小さな廃墟のようだ。
普段は暖かさが溢れる遊具も、
ただのガラクタにしか見えない。
男の足が
出口の近くの池にさしかかったとき、
サワッと、
池の脇にある柳の木の枝が
不気味に揺れた。
心は拒否するのに、
男の体は言うことを聞かずに
すくんで立ち止まってしまう。
全くと言っていいほど
風は吹いていない。
だが、男の目は
確かに枝が揺れたのをとらえた。
(鳥……? )
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