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マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ。
脳内で警鐘が鳴っている。撤退命令発令中なんだよ。
そんなエマージェンシーなんて当然路地で待機している仲間に聞こえるわけなく、狂乱の化身となった向山を止める勇者なんていないわけで。
右腕にしがみつくミズキが顔面蒼白でプルプル震えているのに気がつく。余裕があればいつもとは180度違うこの表情を網膜に焼き付けておきたかったが、今回のケースでは厳しいようだ。
今すぐ逃げ出したい。出来るだけ遠くに。遠くに行きたい。地球の裏側とかに。南米の人民にウェルカムされたい。
だが本能は叫んでいる。守れ、と。ちっちゃく震えるかよわき女性を守れと。
大丈夫、まだ最後の切り札が残っているんだ。
「向山……。堕ちたな」
「何がだよ?」
「お前は俺を手に入れたい。だから手段を選らばない。だが俺はお前なんかに身を委ねるつもりはない。そんなのゼウスだって認めない。だから俺も、手段を選らばない。OK?」
「……何が言いたいんだよ?」
嫌な気配を察知したのか、向山の表情が僅かに曇る。野生の勘か。
「良い機会だ。説教してやるよ」
そっとミズキを遠ざけ、口を開く。
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