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「……オヴリム」
「え……?」
俺の口から漏れた、大事な言葉。
彼女は顔をしかめて、どうしてそれを……? と俺に問う。
「教えてもらったんだ。大切な人から……語感が、好きなんだってさ」
「あらあら。その人、私と同じだね。私もその言葉、好きだよ。……意味は、好きになれないけど」
……だろうな。
「だったらさ。なんか……別の意味、つけてみないか?」
「別の、意味……?」
ああ。
「俺と、君だけの……二人だけの意味」
「……どうして、私と〈君〉だけ、なの?」
「……やっぱりそこ、引っかかるか」
「ううん、実はそんなに引っかかってない。……もう一度、君に会いたいなって……ずっと思ってたから」
俺は彼女を放し、照れくさくなって、鼻の下を指でこする。
フィオ、本当にフィオなんだな……。
素振りとか、素直に言わないところとか、彼女らしい。
「……〈大丈夫〉って意味、どうかな……」
「〈大丈夫〉?」
「〈オヴリム〉の、意味だよ」
「いいよ。……じゃ、今日から〈オヴリム〉は、私達二人だけの〈大丈夫〉、ね♪」
彼女は笑いながら、花畑の向こうに続く青い空を眺めた。
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