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「〈古代エスタニア〉では、人に贈り物をする時に、そのあげる物に付けるものがあるんだよな?」
「……君、どうしてそれを……? オヴリムといい……君は本当に、なんなのかしら……?」
「……殺し屋兼勇者ってところかな?」
彼女は不思議そうに、ふざけている俺の顔を、覗き込む。
その風習がひょっとしたら〈古代ヴェルガナス〉の風習かもしれない……って教えたら、彼女はさらに驚くだろうか?
「……〈タイトル〉を付けるんだよな。送るものに」
「ええ、そうだけど……」
俺がポケットから取り出したものに、彼女は素直に驚いてくれた。
彼女の耳元で光っているそれと、同じものが俺の手のひらにあるんだ。
そりゃ、驚くよな。
……君の片方だけのピアスは、今日の為にずっと一つ、ずっと……一人だったのかな……?
空はどこまでも高く、雲はのんびりと流れていく。
これから先、どんなことが俺に待ち受けているかは分からない。
しかし、フィオがいれば……大丈夫だと、思う。
誰かの隣にいることで、誰かと繋がっていることで、人は前に進めるから。
多くの出会いと別れ、戦いと涙を通じて、俺達は確かに〈何か〉を得たはずだ。
次に〈何か〉を生かす為に、きちんと自分自身を見つめて、受け入れなきゃいけない。
俺は仲間とともに、芽を育て、木にした。
誰かが育てたものを受け取り、そしてそれを次の奴らにたくす……そうやって、命は続いていくんだ。
俺達はそうして、長い時の流れを生きていく。
遥か彼方の未来にいる、〈お前〉にいつか俺の想いが届くその日まで、俺は生きて戦い続けてやるさ。
フィオと一緒に……。
精一杯、生きる。
俺は彼女の瞳を見つめたまま、口を開く。
伝えたいことが、あったんだ。
あの日、君に伝えたいことが、あったんだ。
今、君の隣にいる奇跡を感じながら……俺は想いを込めて、君にピアスを送る……。
そして、
俺は〈タイトル〉を告げた……。
〈完〉
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