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「あ…あんた!なん……なんで?!」
「遅いじゃねぇかよ。怪しまれるから、お前が戻ってくるまで電気も暖房も無しだ。」
その男は僕のベッドに腰掛け、頬杖を突きながらふてぶてしくニヤニヤしていた。
「…なんで…ここにいるんだよ……。」
「“なんで”はないだろう。事後報告に来たんだ。それから、色々調べさせてもらったぞ。黒岩了(クロイワ・リョウ)、18歳。1人上京して高校に通う。両親は埼玉に在住。…ピッキングするのは楽だったぜ。古いタイプだしな。」
少しの沈黙の後、僕の肩から鞄が音を立てて滑り落ちた。
「……着替えたら?」
男は僕を見て微笑んでいる。全く気持ち悪い。
何も言わず、僕が制服を脱ぎ始めると、男は場所を移しソファに腰を下ろした。
「…案外落ち着いたもんだな。」
「え……?」
「普通のヤツなら今頃、疑心暗鬼か鬱になって錯乱してる。人を……殺してるんだからな。」
この言葉で、唯一残っていた希望は掻き消された。
「菜子は…死んだのか。」
「なんだ、あの状況で生きてるとでも思ったのか?」
男はケラケラと笑っている。
「うるさい。……あんただって、僕を警察に突き出さない時点で共犯だぞ。」
「分かってる。」
男は至ってしれっとした口調で話す。なんだか鼻につく。
「それから……。」
と、男がテーブルの上にドサリと黒いゴミ袋と持ち手付きの茶色い紙袋を置いた。
「頭と手、それから制服。あの死体から取り払っておいた。身許の発覚はできるだけ遅い方がいいだろう?取って置くならそうすりゃいいし、要らなきゃ生ゴミにでも混ぜて捨てておけ。」
男は、自分の言っていることの自覚がないかのような、涼しい顔をしている。恐る恐るごみ袋の口を開くと、そこには確かに島崎菜子がいた。いや、正確には島崎菜子の一部だ。
「うっ……ぅゔえぇっ!」
僕は突然吐き気を覚え、トイレに駆け込んだ。昼を食べていないから何も出るものがなく、胃液だけが苦く、喉にしみる。
「大丈夫かぁ?情けないなぁ。」
男はいつの間にか僕の後ろに立ち、見下ろしながらまた笑っていた。
「…何なんだよ……あんた」。
「俺?……二宮晋司(ニノミヤ・シンジ)。よろしく、少年。あ…いや、了くん。」
二宮の笑顔はとても優しいものだった。女はこう云うものにときめくのだろう。だがこの状況では僕の神経を逆撫でするだけだ。
「っ…そういうことを訊いてるんじゃない!…どうしてこんな事をするんだ?!」
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