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「こう見えて俺って優しいからさ。放って置けなかったんだよねー。」
「っ…馬鹿言え!」
僕が立ち上がり居間へと戻ると、二宮もついて来る。
「馬鹿はないだろう。」
コップに汲んだ水道水を飲む僕に笑顔のままで話を続ける。
コップをシンクの中に置き、ソファに腰を下ろしす。
「…何か目的があるんじゃないのか……。」
「察しがいいな……。それよか腹減らない?」
「減らない!それで、何が望みなんだ……?強請ったって僕に金なんてないぞ。」
「金なんか要らない。充分持ってる。」
そんな気障りな言葉をサラリと吐くと、二宮は僕の隣に腰を下ろし、僕の両肩を掴みソファに押し倒した。突然の展開に、僕の頭は真っ白になった。今まで客を相手する時は、事前に心の準備ができた。しかし、こうもいきなりでは戸惑う。
「俺が欲しいのはお前だ。」
その言葉に、顔が熱くなるのが自分でも分かった。
「僕はっ…あんたと、その……行為は出来ない。」
「金を払ってくれる相手じゃなきゃ嫌か?」
「そ…そういうことじゃ……。」
二宮の顔が歪んだかと思うと、“ぷっ”と吹き出し、続けて肩を揺らしながら笑った。
「冗~談だよ!お前には仕事を手伝って欲しいんだ。」
「…仕事?」
「そう。こっちのスジじゃ掃除屋って謂われてる。俺達はお抱えだけどな。」
「…よく分かんないんだけど……。」
二宮は体を起こすと、内ポケットから取り出した煙草に火を着け、一つ煙を吐き出した。
「…直にわかるだろう。即座に解せるような奴ぁいないよ。」
「…………。」
「あぁ、ついでに言っておくと、君に断る権利はないよ。“人殺し”くん。」
僕に向き直りそう言った二宮は始終、笑顔を変えなかった。僕の胸中に怒りが沸き上がる。
「……もう寝る!!」
僕は立ち上がり足速に寝室へ行き、うつぶせにベッドに倒れ込んだ。乾いた軋音を立てる。
「…何だよ、冷たいなぁ。」
そう言って、不貞腐れたような顔をしている。
「じゃ……俺も寝るか。」
二宮は三人掛けソファの両のひじ掛けに頭と足を乗せる形で横になった。
「なっ…帰れって!」
「いいじゃん。」
「やだよ!!」
僕たちは互いに寝転がったまま、銃撃戦の様に言葉を交わした。
「じゃ、おやすみ。」
二宮は眼鏡を外してテーブルの上に置き、そのまま寝入ってしまった。
「おい!……全く………。」
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