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◇
「……広島…?突然どうして?」
「言っただろ。“仕事を手伝え”って。」
なんだか、二宮にずっとイニチアシブを握られたままのような気がする。
「ほらっ、早く着替えろ!もう新幹線の席取ってあるんだから。」
用意周到だ。元から無理矢理にでも僕を広島に連れていくつもりだったのだろう。僕が着替えを終えると、二宮はさっさと部屋を出た。
◇
僕は、朝の通勤ラッシュで混雑するプラットフォームにいた。昨日と同じように、何故だか周囲の人々の会話が耳につく。自然と眉間ににシワが寄っていた。
「人込みは嫌いか?」
二宮が駅弁の入った袋をぶら下げて戻ってきた。三席在るベンチの、僕の座る位置から反対の左端に一席隔てて腰掛け、マルボロを一本咥えて火を着ける。
「…どうして……?」
「変な顔になってるから。」
「…うるさいよ………。」
二宮の口から白い煙が昇っていく。
「………そんなに思い詰める事ないさ……。人間は皆元来、破壊衝動を持ってるんだ。今回それのリミッターが外れただけの事だ。…受け売りだけどな。」
「そんなこと、誰が言ったんだよ。」
「さぁ?忘れた。どっかの学者だったかな。」
――2番線に広島行きが参ります。危ないですので……―
そのアナウンスと共に、大勢の群集が移動を始める。二宮も灰皿に煙草を押し付け、立ち上がった。僕もそれに追従する。しかし、ベンチに放置された白いレジ袋が目に入り、それを取り上げた。
「おい、弁当!」
「あぁ……。」
朝に弱いと云うのは本当のようだ。
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