13人が本棚に入れています
本棚に追加
◇
地にくっきりと影が伸びるほどに月の明るい冬の夜。薄明るく灯った街灯に照らされた高台の公園に、口論をする男女がいた。濃い栗色の髪で真面目風の少年。エンブレムの付いた、濃紺色のブレザーを着ている。そして同じブレザー、膝丈のスカートに肩程までの黒髪の少女。
「待てって、菜子(ナコ)!」
少年は、踵を返して公園を去ろうとする少女の手首を掴み、引き留めた。
「ちょっと、痛い!放して!!」
「菜子!」
少女は激しく抵抗するが、掴んだ手は放されない。
「男に体を売るような人となんか、もう付き合えない!」
少女は無理矢理その手を引き離すと、少年に向き直り激しい剣幕で怒鳴りつけた。
「それは…っ、お前と付き合っていくには金が要るから……!」
「何それ!人を金食い虫みたいに!」
少女はふたたび向きを変えてその場を去ろうとしたが、公園から下を通る道路へと下る階段の前で、少年の手に止められた。
「待てってば!話を聞いてくれよ!」
「話すことなんか無い!触らないでよ、汚い!!」
そう言って少年の手を振りほどこうとした――
次の瞬間、少女は階段の下に横たわり動かなくなっていた。頭部からゆっくりと黒い液体が広がる。少年は階段の上に茫然としていた。
すると突然、少年の背後から声がした。
「あぁ~あ……。」
子供のようなその口調に少年がとっさに振り返ると、背後にはツーポイントの眼鏡にタイレスの黒いスーツという出で立ちの男が、悠然と立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!