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「……っ!」
状況を把握しきれていない少年の表情が一瞬にして強張り、呼吸が上がっている。
「…ビビってんの?」
男の声と表情は一定して穏やかなままだ。笑みさえ含んでいる。
「大丈夫だ。お前をどうしようって訳じゃない。」
男は普通の人間が見れば卒倒するであろう光景を前に事もなげにそう言い放つと、同時に一歩踏み出した。少年は体を大きくビクつかせる。しかし男は少年の傍らを通りすぎた。階段を下りて倒れた少女の前に屈み込むと、少女の膝裏と背中に手を差し込みお姫様だっこの様にして再び階段を登って少年の許へと戻り、動かなくなった少女を少年の目の前に横たえた。
「な…何なんだよ、あんた……?」
少年は未だ怯えた表情で立ち尽くしている。
「…親切なお兄さん。」
男は顔を向けることもなく、あっけらかんとそう言うと、ジャケットのポケットから手術などに使うゴム手袋を取り出し、両手に嵌めた。
「後は俺が上手くやっておくから…お前は帰れ。」
「何だよ…それ……。意味分かんない。」
少年の顔には明らかな困惑の色がにじむ。
「いいから行け。ここに居ても邪魔になるだけだ。」
そう言いながら男は少女の傍らに屈み込むと、ジャケットの裏、腰の辺りから黒いグリップの、大振りのサバイバルナイフを取り出した。シースから抜かれると街灯を反射して鋭く光った。
「でも……っ!」
「帰れ。」
それまで穏やかだった男の言葉が、突然冷たさを帯びた。それに気圧された少年は、少し躊躇った後、階段を駆け下りその場から走り去った。
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