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◇
冬の朝は万人の上に冷たく、そしてゆっくりと降りてくる。それは僕にも同じだった。
冷え切った部屋の中、カーテンの隙間から差し込む朝日に照らされて、濃灰色の布団がステンレスパイプ製のベッドの上でモゾモゾとうごめいている。
仕方なく僕はゆっくりと起き上がる。そして布団から出て立ち上がると、寒さ、床の温度に、体が芯から震えた。ぼやけた意識のまま浴室に向かう。結局僕は、昨夜は一睡も出来ないまま夜を明かした。鏡に写る僕の顔には隈が出来ていた。
「…酷い顔だ……。」
手早くシャワーを浴び、真っ白なタオルで乱暴に体を拭いた。まだ覚めきらない眠気と重い体を引きずりながら、ワイシャツを替え、ネクタイを締め、制服のブレザーに袖を通す。そしてブルゾンを着て、中身が昨日のままの、褻れたエナメルのボストンバッグを肩に掛けて部屋を後にした。
駅までの道を歩きながら僕は考えた。
「あの男はどうしたのだろう。僕の後始末を引き受けた男は。」
と。殺人現場に突如現れ、後始末を任せろと言うのだ。普通に考えれば、異常な話ではないか。……いや、そもそも“あの瞬間”から普通なんてものは、遥かに遠退いてしまったのかもしれない。
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