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今日も僕は、人の波に身を委ねて流れていく。未だかつて、これ程に人との距離を気にしたことはなかった。これはやはり、怯えているということだろうか。しかし、何に?警察にか?非難されることにか?堪えても、堪えても膝が笑う。
駅へ向かう途中、昨夜の公園の下を通った。死体は無かったし、頭部から広がったはずの血痕もない。いつもと何も変わった所は見当たらない。「あれは夢だったんじゃないか」「学校に行けば、いつもと同じに菜子がいるんじゃないか」と、思いさえした。
「おい、了(リョウ)!」
駅の目前で誰かに呼び止められ、振り返ると同じクラスの男子、玉置が駆け寄って来ていた。僕はそのまま歩き続ける。
「おっはよー。」
玉置が僕に並んで歩く。
「ん。」
「なんだよ、暗いなぁ。」
「うるせ。」
自動改札に定期ケースをかざし、プラットホームへと降りた。いつも通り、通勤のサラリーマンや学生でごった返している。
「なぁ、了。」
「ん?」
「菜子ちゃんは?一緒じゃないのか?」
「……あぁ。…親戚の所に行くんだとさ。」
「何かあったの?」
玉置の言葉を遮るかのように電車が滑り込んで来た。
「…行くぞ。」
嘘をついた。
この嘘を守るためにこれからも嘘を重ねなければならないだろう事は容易に想像がついた。全ての人間に。自分自身に。
誰か言ってたな。「同じ嘘を何千回、何万回と繰り返せば、それは真実となる。」ホントかよ。
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