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昨夜のあの事を、あの男以外まだ誰も知らないのだろうか。駅を出て、学校までバスに揺られながらそう思った。
ふと、どこからか菜子の声がした。急激に脈拍が上がる。違う。菜子は…あいつは死んだ筈だ。思わず車内を見回し菜子の姿を探していた。それと同時に、菜子に生きていて欲しいと思っている自分と間にの矛盾を覚え戸惑った。
「なぁ了、聞いてるか?」
玉置の言葉にふと我に還る。彼が僕の顔をしげしげと覗き込んでいる。……気の所為だ。
「あ…あぁ、悪い。……何だっけ…?」
「おい、大丈夫かぁ?いつもよりひどく呆けてるぞ?顔色も悪いし」
「…昨日寝てなくて。」
話を続ける玉置の声、バスのエンジン音。あらゆる音が異常に大きく頭に響く。ひどく息が詰まる。
それから学校に着くまでの間、玉置と何を話したのかはっきりとは記憶にない。当たり障りのない言葉を選んでいた気がする。精神の不安定さを玉置に悟られ、そこから昨夜の事をも知られてしまうのではないかと不安で堪らなかった。
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