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「いらっしゃいませ」 急な声に私は文字通り飛び上がった。 店なのだから人がいて当然だ。しかし、心臓に悪い。 「すみません」 驚かせてしまって、と続けながら蝋燭の灯りを手にした男性が目の前に現れた。 「いえ・・・」 私はやっとのことでそれだけを口にした。 蝋燭の灯りで店内がぼんやり浮かび上がる。 綺麗にはしているがどことなくレトロな雰囲気を醸し出している。 いやわざとそうしているのかもしれない。どことなく漂う懐かしさを売りにしているのかも。 そんなことをぐるぐる考えながら私は固まったまま動けない。 この状況はなんなんだ。 目の前の男性、多分店員なのだろう、も私の前で固まっている。全身黒っぽい服装で統一されている。当然髪の色も黒、眼鏡の縁まで黒色だった。 見事なまでに統一されているな、と私は変なところで感心してしまった。 ところで私は未だ突っ立ったままである。そして店員も・・・。 「あの・・・」 店員は遠慮がちに声をあげた。 「お席にどうぞ」
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