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「どんな話を?」  代わりに出たのはそんな言葉だった。 「そうですね。何故そんなに水が嫌いになったのか、とか」  反射的に店員の顔を睨む。感情の掴めない深い色を湛えた瞳。  私は自分を落ち着かせるために深い息を吐いた。 「嫌いじゃ・・・ないわ」  ゆっくり言葉を選ぶ。 「そうね。話してしまえば楽になるかしら」  知らない場所。知らない人間。もう会うこともない。 「私がまだ小学校3年生の頃だったわ。当時はマンションに住んでたの。いつも学校から帰ったら同じマンションの子たちと遊んでたわ」  懐かしい。  あの頃は色んな遊びをした。  ハンカチ落としや、鬼ごっこ。高鬼、影鬼・・・。  かくれんぼ。 「マンションまで使っての遊びは楽しかったわ。みんな日が暮れるまで遊んでた。」  あの日までは。 「そう、あの時かくれんぼで事故があるまでは。」  私は遠い日を思い出していた。  もういいかい。  まあだだよ。 「事故、ですか?」  いつも通りのかくれんぼ。いつも通りに始まって、いつも通りに・・・終わらなかった。  見つからなかったあの娘。
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