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『あっちゃーみつかっちゃった』  軽く舌を出して見せるあの娘。  二つに結んだおさげが揺れている。 『危ないよ』  私は心にもないことを言う。 『うん・・・、ねえ志保里ちゃん』  私は先を促した。 『京助さんに告白しようと思うんだ』  照れ隠しか軽く足を降りながらあの娘は言う。答える私の声は僅かにひび割れていた。 『へえ・・・。お兄ちゃん鈍感だよ』 『うん。ありがとう、がんばる』  応援してなんかいない。お前なんか嫌いだ。邪魔するやつは全部嫌いだ。いらない。ぜんぶいらない。いらない・・・。 『志保里ちゃ・・・』  笑顔のと中みたいな変な顔であの娘は固まっていた。  一瞬わけがわからないといった表情。  私は呟く。 『いらない。お前なんかいらない』  だんだん小さくなるあの娘の姿。力一杯押したから私も縁のギリギリのところに手をついていた。  貯水タンクの・・・。  ざぶざぶ五月蝿い音がする。私は梯子を降りて音がしなくなるまで貯水タンクにもたれかかっていた。  たぷん。  かくれんぼ。  カクレンボ。  見つけたら鬼の勝ち。  蝋燭の灯が消えたせいで辺りは真っ暗だった。 「そういえば」  店員の声がする。  「鬼に捕まった人はどうなるんでしょうね・・・」  かたりとテーブルにグラスが置かれた。  透明な水が注がれた。 『もうよろしいですか?』 『もういいわ』  会話が反芻される。       モウイイヨ       ミツケニイクヨ 「結構なお代でした」  店員の抑揚のない声が闇に溶けていった。
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