Ⅱ. 孤独な狼

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「なんでそんなとこで待ってんだ?」  狼は彼に興味を持った。見た目でまだ子供だと分かる。不自然な場所に不自然な時間帯。普通の狼とは違う巨大な狼も、普通の人間とは違う彼に何かを見出したのかもしれない。 「町のみんなが僕たちのこと嫌いだったから、逃げてきたんだと思う。母さんは先に行っててって言ったんだけど……」  そこまで言って口を濁す。狼は何かにピンときて、再び口を開いた。 「町……今逃げてきたのか?」  彼は黙って頷いた。狼はふむと喉を鳴らし、顔を上に向けて鼻をヒクヒクさせる。人間にはわからない微かな臭いが風にのって運ばれるのを、狼は感じ取った。 「さっきから何か焼ける臭いがすると思ったら、こいつの母親ってんなら今頃魔女裁判で火あぶりってとこか……」  何が焼ける臭いかまでは分からないが、このご時世でこんな子供の母親なのだ。何があったかは察しがつく。 「何か言った?」 「いんや、お前の母ちゃんが先に行けって言ってんなら、先に行った方がいいんじゃねえのか?」  狼は気付いていた、もうこの子の母親はこの世にはいないと。その母親の意思を汲むのなら彼はこの場から離れるべきだと狼は思った。だが目下の彼は素直に言うことを聞きそうにはない。 「ううん、僕待ってる」  彼は頑として動こうとしない。狼は溜め息をつき、視線を彼から逸らした。 「ったく、見つかっても知らねえぞ。お前が死んだらお前の母ちゃんも犬死にじゃねえか」  これ以上彼に言い聞かせる義理はない。無理に説得する必要もないし、見つかって殺されたらそれはそれだけのこと。狼はそのまま立ち去るつもりだった。  だが狼はその時点で自分のミスに気付いていなかった。 「犬死にってどういうこと!?」  彼は立ち上がって叫んだ。聞き捨てならないと、睨みつけるように答えを待つ。  対して狼は「しまった」と深い溜め息をついた。 「俺としたことが、『犬』死になんて言葉で口を滑らせちまうなんて……」 「ちゃんと答えてよ、どういうこと!?」  彼はなおも叫び続けた。
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