Ⅰ. 悪魔の子

3/8
前へ
/91ページ
次へ
 やがて彼は8歳の誕生日を迎えた。寒い季節、彼はこの季節が好きだった。体を覆う厚いコートが彼の肌を隠してくれる。注意すれば町の人に気付かれることもない。  普段なら決してこのようなことはしなかっただろう。だが彼は誕生日を迎えたということもあり気分が良かった。どうしても外に出て、太陽の光を浴びたかったのだ。  彼は外に出た。散歩がてら向かうのは、町外れにある誰もいない公園。公園の端にある草むらに寝そべり、仰向けになって太陽の光を一身に浴びた。  彼はこの場所が大好きだった。例え冬の寒さに太陽の熱が彼に届かなくても、太陽の恵みはきちんと彼にまで届いていた。優しい光に包まれて、彼はゆっくりと瞼を閉じた。 「おい、こんなところに悪魔がいるぜ」  不意に何者かに胸倉を掴まれて、彼は無理やり立たされた。幸せな夢から引き戻されたのは冷たい現実。目を開けばそこにいるのはいつも彼を苛めている少年たち。嘲るように、蔑むように笑う顔と、振り上げられた握り拳。 「悪魔は人間と一緒に住んじゃいけないんだよ!」 「悪魔がこの町に何しにきたんだよ!」 「悪魔は魔界へ帰れ!」  冷酷無比な言葉を浴びせながら、少年たちは彼を殴った。倒れては立たせ、殴る。だが繰り返される虐待にも、彼は決して涙を流さない。慣れている、この程度のことは……。 「お前の母ちゃんも悪魔の手先なんだろ? 気持ち悪いんだよ!」  だが決して言ってはいけないことを、少年は言ってしまった。町全体からのけ者にされている彼にとって、唯一の心の依り代。  その言葉を聞いた瞬間、彼の燃えるような瞳がその少年をとらえた。 「母さんを悪く言うな!」  彼は叫んだ。初めての抵抗かもしれない。頭がカッとなり、全てを感情にまかせて少年を睨み、叫んだ。  その瞬間、激しい爆音と共に形のない衝撃波がいじめっ子たちを襲った。見えない何かに吹き飛ばされる少年たち。自分たちがどういう状況かも理解できないまま木の葉のように舞い散る。  だが一人だけ、最後に母親の悪口を言った少年だけは宙に舞うのではなく一直線上に吹き飛んだ。いじめっ子たちの中でもとりわけ体格のよいリーダー格の男の子。  次々と地面に背中から着地する少年たちは、彼の真っ赤な瞳に怯えながらリーダーの少年を探してキョロキョロと辺りを見回した。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3603人が本棚に入れています
本棚に追加