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不安をかき消すように彼はテーブルに添えられている椅子に腰掛けて料理を待つ。クンクンと匂いを嗅いで料理を当ててみる。
大好きなミートボールかな? お母さんの得意なシチューかな? 母親に聞いてみても彼女は楽し気な声で「秘密よ」と答えるだけ。
ここだけ見ればとても幸せそうな家族絵図。町に噂立った子供のことで逃げ出した父親がいないことを除けばこれ以上に幸せな家族もそうはいなかっただろう。
もしかしたら他の町に生まれ育っていればこういうこともなかったのかもしれない。神を信じ、信仰に厚いこの町の風習だからこそ、彼らは幸せではいられなかった。信仰が厚いからこそ、悪魔のような容姿の彼は疎まれたのだ。
だがそれも見た目だけの話。実際に実害のない彼らをどうやって追い出せようか。町の人たちは彼らを追い出す口実を必死に探していた。
そして事件は起きた。町の衆にしてみてはやっと巡ってきた機会なのだが、喜ぶ以前に恐怖が先立った。見た目だけではない。中身も、存在そのものが悪魔なのだと。悪魔の結末とは? 決まっている、神に仇なす者の末路など……。
テーブルに料理が運ばれてくる。彼の大好きなミートボールがその料理の中に含まれていると彼は大いに喜んだ。その様子を見て母親も笑みがこぼれる。全ての料理がテーブルの上に並び、母親も席につこうとして、そして異変に気付いた。
慌しくざわめく屋外。月が昇り始めた薄暗い空の下、窓から外を覗けばたくさんの明かりが家の前で揺らいでいた。
「な、何あれ…」
母親は愕然とし、その場にぺしゃりと座り込んだ。彼は何事かと椅子に座ったまま視線を母親に向ける。肩を震わせ、窓の縁のカーテンをギュッと握り締めている母親は何かに怯えているようだった。
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