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一体何が外で起こっているのか、彼が椅子から飛び降りて窓に向かう前に外から大きな声が家の中にまで響いてきた。
「悪魔を殺せ!」
「悪魔の存在を許すな!」
「魔女ともども悪魔を殺せ!」
町の人々が彼らに向かって叫んでいた。魔女とは言うまでもなく母親のことだ。町の者は面と向かっては言わなかったが彼女を、悪魔を生んだ魔女として陰口をこぼしていた。
町全体が震えるのではないかと思うほどの声が響き渡る。彼は母親を見た。母親が心から怯えているのが力を使わずともわかる。それは彼も同じこと。外から差し向けられた殺気と狂気に彼らは恐怖を抑えることはできなかった。
母親は彼を抱きしめた。震える肩を必死に抑え、怖がらせないように必死に抱きしめた。
だが突然、あれだけ慌しかった家の外が急に静かになった。外を覗いてみると、緑色の綺麗なローブを着て、立派な司祭帽をかぶった老人が一人、群衆の前に立っているのが見えた。
「あれは……神父様?」
母親がぼそっと呟いた。霞みがかった記憶を手繰る、小さい頃に見た神父様の姿。彼を生んで悪魔の母と呼ばれるようになってからは教会に行った事はない。悪魔と魔女として畏れられていた二人は教会にとって忌むべき対象。かつて信心深い町民の一人であった彼女も、今では家に小さく飾ってある祭壇に祈るのみだった。
そんな彼女の目に映るのはやはり教会の司祭。手には何かの文書を持ち、それを大声で読み上げる。群集の叫びは消えているものの、老人のか細い声では全てを聞き取ることはできないが、それでもある程度の単語は耳に入ってきた。
「私は……だ。今……教会に出頭………」
母親はその言葉を聞いて、手で口を押さえながら再びしゃがみこんだ。全ては聞き取れなかったものの、何を言おうとしていたかは理解できたらしい。その目は大きく見開き、驚愕の表情を浮かべている。
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