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奴といるときに、奴が帰る姿を見て、何度も泣いた。
そんな日々が続いた時、友達のバンドの打ち上げで私は彼に出会った。
名前は陽介。
他のバンドのギターをしていて、私の1つ年下。
「ごめん。もう行かないと兄貴に送ってもらえなくなる」
私は友達に言って席を立つ。
友達はベースとボーカルの男2人だけのバンドで、友達以外の人はほぼ知らない人ばかりの合同打ち上げだった。
ちなみに兄貴というのは、バイトをしていたときの知り合いの兄貴。
打ち上げ場所の近くでショットバーを経営しているやべっち似の人だ。
実家に家が近いこともあって、終電を過ぎると送ってもらうことがよくあった。
席を立って帰るために靴を履いていると、酔っ払いの陽介に声をかけられた。
「もう帰るん?」
「え?あ…うん」
話したこともない男に声をかけられてもな…。
この人はどこのバンドの人なんだか。
「もっと飲んで食べていかんと」
「いや、友達待ってるから」
完全に絡み酒だ。
私は引き止められて絡まれて、どうしようか悩む。
兄貴から催促のメールがくる。
早く来なかったら帰るぞって。
うわわっ。今日は始発まで、ここにつきあっていたくないんだってば。
ライブハウスのスタッフもいるし、あれはベースの彼女だし、ファンらしき人はいない身内っぽい打ち上げだし。
正直、居場所がなかった。
陽介を振り切れなくて、携帯番号の交換なんてしてしまう。
名古屋バンドのこの人と絡むことは、この先有り得ないと思うけど。
「ごめん。もう行くからっ」
何度言っても絡み酒陽介は聞いてくれない。
そのうち、ようやく陽介のバンドのメンバーの男と女が陽介を止めてくれた。
私は急いで兄貴の店に向かう。
これが陽介との出会い。
顔なんて覚えている余裕もなかった。
その独特の訛りに興味はひかれたけど。
名古屋の人ではなかったのを知ったのは後日。
メールと電話を繰り返すようになってからのことだ。
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