俺は、この世界に一人きりだ

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そうこうしてる間に教頭は校長室の前で足を止める。 「礼儀正しくね」 夜一にそう囁き、教頭はドアを数回ノックして開けた。 「失礼します」 「し、失礼します…」 教頭の後ろに続き、校長室に入る夜一。 中には、いつも居る禿げたメタボのオッサンではなく、とてつもない美女が立っていた。 夜一は言葉を失った。 「理事長。銀君をお連れしました」 教頭の言葉に、窓際に立っていた理事長はクルリと振り返る。 肩にかかる程度の赤茶の髪。 長くカールしたまつ毛に縁取られる大きな瞳。 スッと通った鼻筋。 少しだけ開いた桜色の唇。 黒のスーツに身を包み、長く白い足がスカートから伸びている。 いかにも“出来る女"を彷彿させる絶世の美女だった。 何より、意志の強さを表したような視線に射ぬかれると、夜一は全身が硬直してしまう。 美女はにっこり笑って教頭に言った。 「ご苦労様。下がっていいですよ」 「はい」 教頭は一礼して校長室を出て行った。  
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