経歴詐称のはじまり

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さて、彼女が妄想を現実にしようとしたその頃は、フリーターの増加が社会問題となり初めた時期に当たる。行政も対策に乗り出し、彼女もその恩恵を受けた。 相談員に、『雇用能力開発機構』なるものが行っている、研修の受講を勧められたのである。内容は、履歴書と職務経歴書の書き方、面接の受け方と模擬面接、簡単なビジネスマナー等で、3日間の日程であった。  当然、彼女はこの研修で偽りの履歴書と職務経歴書を書き、嘘を語る面接の練習をしたのである。彼女に言わせると、この研修のお陰で自信がつき、偽装した経歴が事実であるとの確信を持てたそうである。  巧妙な詐欺師が他人を信じ込ませる時、何よりも、自分の並べ立てる嘘を真実と確信しているのは、当の詐欺師であると思う。自分の嘘に対する絶大な信頼によって生じる陶酔した様が、他人を信じさせるのである。彼女をして、このような、心境に達したのではないだろうか。
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