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しかし、彼女は研修で詐称をする技術だけを学んだのは無い。もっと広い意味での偽装工作、つまり『面接に限らず、社会では自分を良く見せることが必要である。』ということに感銘を受けたらしい。素の自分や本当の私では、今の世の中やって行けないということだ。
研修で特別に公演をしていた、かなり年配である大学の就職担当が述べたそうだが、田舎の若者に対しては、的を得た教えだと思う。今でこそ事情が異なるだろうが、こういうことが親や聖職者から子に教えられることは稀であったであろうから。
ところで、近年よく言われるコミュニケーション力とは、良く見せることのような偽装工作の技術だと思う。面白くも無い冗談に笑ってみせたり、適当にやってるのに一生懸命やっているように見せたり、演出のようなものだ。彼女が、かつてデパートに勤めていた時に、普通に働きたいだけなのに何で特別なことをしなきゃならないのかと違和感をもったのは、こういう演出を本心からやらなきゃいけないと思い込んだところにあったのでは無いだろうか。
言わば、社会に出るということの本質を、彼女はこの研修で始めて理解したのかも知れない。だが、お水やヘルス嬢をしていた彼女にとって、ひとたび理解すれば、このような演出は、お手のものであったろう。
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