序章

2/2
前へ
/67ページ
次へ
  白銀の世界。音さえも失ったような、静かな風景。 真っ直ぐに灰色の空を目指す木々に囲まれた、不自然な程に開けた空間に、その異質な存在は、いた。 「…見つけた」 呟くと、足音を立てることなくゆっくり近づく。 湖の畔に佇んでいたその存在は、顔を上げることなく口を開いた。 「何者だ」 答えは返さない。 躊躇ことなく近づく気配に、その者の纏う空気が一瞬、鋭さを増した。 異質な存在―――佇む男は、僅かに顔を上げる。 舞い落ちてくる銀雪のような髪の奥から、鋭く細められた黄金の瞳がちらりと覗いた。 「お前の望むものをあげよう」 聞き取れない程に小さく囁く。 唇を歪め、笑みを形作る。 男の射抜くような瞳が、揺れた。  
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加