一章

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  男と客が楽しそうに談笑している所へ、愛想の欠片もないような無表情の女が店の奥から現れた。 「お待たせしてすいません。ようやく焼き上がったみたいで」 何も言わない女の代わりに、男が申し訳なさそうに謝る。 「いいのよ、アシュレイ。おかげで楽しい時間を過ごせたし」 黙々と商品を陳列する女を身ながら、客は穏やかな笑みを浮かべた。 陳列し終えると、女は軽く頭を下げ、店の奥へと引っ込んでいく。 「またね」 「ありがとうございました」 客のいなくなった店内。 途端に今までの和やかな雰囲気とは似ても似つかない顔で、男は静かにその名を呼んだ。 「ノエル」  
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