エピローグ。

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   私が目を覚ましたのは、医者が言うところの『奇跡』であるらしい。  あの日、俗に『平成最悪の無差別殺人鬼』と呼ばれている通り魔に全身を切り刻まれた私は、結構ヤバい状態であったのだそうだ。  小難しいことは分からないが、目覚めたのだから必然でいいじゃないか、とも思う。その辺りの認識は立場によって違うのだろう。  目覚めた瞬間、隣にいた母は全身全霊を以て抱きついてきた。くそ痛かったのを覚えている。『ありがとう、ありがとう』と、しきりに死んだ親父の名を呟いていたが、死人が助けてくれるのなら世話はない。  いま、私はやたらと辛いリハビリテーションに励む毎日を送っている。  新聞で読んだのだが、私を滅多刺しにした殺人鬼は、日夜悪夢にうなされ、気がふれてしまったらしい。なんでも『黒い目の自分に追われて殺したやつが後ろにいる』んだとか。  意味不明である。 「はあ~……早く治らねえかな」  そう言いながらも、退屈な学生生活に戻るよりはマシかもなあ、などと考えている自分がいる。  『やっぱり夢がねえなあ』  誰かの声が聞こえた気がした。 (2008/09/14/『獏と微睡む』/了)
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