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「姫様、お待ちくださーーい!」
「どこまで行かれるのですかーー!」
ギティル王国の内でも知らない者は少ない、名の知れた大臣達は今、慣れない肉体労働に身を削っていた。
「うるさい! もう王女なんて辞める!」
腰まで美しい金髪を揺らしながら、その少女は長い廊下の赤い絨毯の上を疾走する。アメジストと比べても遜色無い、色素の薄い紫の瞳が左右に動き、次の行き先を決定して行く。
テラスに続く、扉を見つけ、少女は素足で鍵の掛かった扉を蹴り破る。
その動作を見る者は、誰1人として彼女がギティル王国の王女だとは思わない筈だ。
「……ユ、ユーア様!?」
「姫様、どうされました!?」
警備中の兵士や、大臣達が駆け寄って来るが、彼らを押し退け、ユーアと呼ばれた少女はテラスの手摺に突進した。
手摺の下は未だ、自分の意思で土を踏んだ事の無い城下。
後ろには優雅だが、退屈な生活。
前には危険だが、心弾む冒険。
箱入りお姫様のユーアには、当然、後者しか選択肢とは呼べない。
ユーアは素早い動きで手摺に飛び乗り、露店に向かってダイブした。
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