鈴虫は知っている。

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日曜日。 「ふぁ…、よく寝た…。」 あれ? そういえば、今朝はあの猫の声が聞こえない。 縁側を覗いてみたが、やはりいない。 さすがに我が家にも飽きたか。 他のもっと居心地のいい縁側を探すがいい。 さらば、猫よ。 夕方。 縁側に出て風呂上がりの一杯をいつものようにやる。 ジリリリリ…! 今夜の鈴虫は激しいな。 まるで、サイレンか何かのようだ。 何かを俺に知らせているのか? そう考えると、なんと風流なことか。 俺に詩人の才能があったとは。 猫は来ない。 今頃、どこで何をしているのだろうか。 おい、俺、あんなに忌々しかった猫なのに一日見ないだけでなぜ、こうも心配する? ジリリリリ…! 鈴虫がやけに騒がしい。 少しばかり風流さに欠けるな。 今夜はもう寝よう。 おやすみ、鈴虫。 おやすみ、猫。 部屋に戻ろうとしたとき、それに気付いた。 どこから取って来たのか、ススキが2本、縁側の端に置いてあった。 俺は何の根拠もなく、猫が別れの挨拶に置いて行ったのだろう、と思った。 「猫って生き物はね、恥ずかしがり屋だから死に目を見られたがらないのよ。」 お袋…? 「特に好きな相手にはね。もう随分と年老いてた老猫だったから…。多分もう…。」 …。 あいつの物欲しそうな顔が目に浮かんだ。 今夜は寝れそうにない。 ジリリリリ…! 鈴虫の鳴き声がうるさかった。
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