一、

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◆ 「まただ」 「……え?」 「連続殺人」  千影が箸で示した方を見ると、朝のニュース番組が流れていた。つい最近この地域で起こり始めた猟奇連続殺人についてだ。詳しくは報道されていないが、所謂バラバラ殺人と呼ばれる類の事件。殺害方法は不明。警官までも殺されている。おかげで皆夜中には出歩かなくなったし、人通りの少ない所にも行かない。 「これで何人だっけ?」 「確か四人」 「なんだってこの時期にこんな物騒な事件が起こるのかしら。出歩けないじゃない」  僕は頷くだけで返事を返した。正直、それよりも昨晩の夢のことの方が気になる。今は世間話をするような気分ではない。  夢の中の映像が頭の中でぐるぐる回る。普通なら夢を見ても、その中身を覚えていることは稀だし、そうだとしてもそれは曖昧なものだ。しかし、この夢は違った。僕はその内容を鮮明に覚えている。歩いた道のり、空気の感触、漂う匂い、飛び散った血液、謎の少女。  夢と呼ぶにはあまりにリアルだった。けれども、それを夢と呼ぶ他に無い。僕はずっとこの家の中にいたはずだし、なにより、あんなことが現実にあっていいはずがない。  ここまで考えて、どう考えようがどうしようもないことだと気づいた。夢とはそういうもの。何か意味のあることだとしたら、いつかはそれがわかるようになっているだろう。  僕には昔から、よく解らなかったり、面倒になりそうな事柄は放置する嫌いがある。けれども今まで不自由することは無かったので、僕自身はこの性格を問題視したことは無い。  長い溜息をつく。これも僕の癖だ。物事が一段落すると勝手に出る。きっと儀式みたいなものだろう。 「どしたの、考え事?」  顔を上げると(いつの間にか僕は俯いていたらしい)千影がこっちを見ていた。 「うん。でも、どうでもいいこと」  そう、と相槌を撃った後、千影は視線を壁の時計へと移した。 「そろそろ出ないと間に合わないわね。入学式に遅刻なんて洒落にならないわ」  千影は箸を置いて、両手を合わせる。テーブルの上の食器はほとんど空になっていた。残っているのは僕の茶碗の中身だけで、それも急いでかきこんで空になった。
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