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学校の前には坂があって、両脇に桜の木が整列していた。漫画ではよく見られる景色だけれど、実際にあると知って、少し感動した。しかし残念なことに、花は殆ど散ってしまっていた。裸の木々に見つめられながら、これが現実というものだろうな、と考えた。でも、そうしたらあのシーンは、どうやって思い付かれたのだろう。昔はこの時期に満開だったのだろうか。それとも、こうであったら良いなという、ただの理想なのだろうか。
千影はひどく興奮した様子で、忙しなく辺りを見回していた。中学に入学したときもこうだったなと思い出して、少し笑ってしまった。
坂はかなり長かった。毎朝登らなくてはいけないと思うと少し憂鬱になる。けれども、振り返ったときに街を見下ろせるというのは爽快だ。暗くなってから下校すれば綺麗な夜景が見えたりするのかな、とちょっと期待もした。
校門の前で、不意に千影の足が止まった。楽しそうな顔でこちらに手を差し出してくる。
「何?」
「一緒にジャンプして跨ごう」
「何で?」
「よくあるじゃん、ドラマとか漫画とかで。青春の第一歩だよ、思いっきり踏み出さないと」
「恥ずかしいから止めよう、って、うわぁ」
千影は渋る僕の手を掴むと、無理矢理引っ張ってジャンプした。僕は思いっきりバランスを崩して、危うく地面と対面しそうになった。なんとか体勢を立て直して顔を上げると、周りの生徒たちが興味深げにこちらを見ていた。僕は誤魔化し半分で千影を睨み付けたが、千影は周囲の状況に気付いていない様子だった。満面の笑みで歩みを進めていくので、僕は怒気を削がれてなんだかやるせなくなってしまった。
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