一、

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 体育館の前に着くと、入り口横の壁に何枚か大きな貼り紙がしてあるのが見えた。数人の生徒が前に立って上に下に頭を動かしている。  近づくと、人の名前が沢山書かれているのがわかった。どうやらクラス分けのようだ。  千影と手分けして名前を探す。 「あっ、あった。……うわ」  どうやらどちらかの名前を見つけたらしい。千影は少し興奮した声を上げた後、なにやら嫌そうな響きを付け足した。  千影の視線の先を覗き込む。 「えっ?」  思わず間抜けな声が出た。暫く文字を見つめた後、ああ、これはどうやら現実らしい、と判断した。  僕たちの視線の先には、次の文字が躍っていた。 5組 No.  名前   ・   ・   ・ 14 狭野 晃 15 狭野 千影   ・   ・   ・  僕たちは顔を見合わせ、同時に溜息をついた。中学に入学した時の騒動を思い出す。  あの時も、僕と千影は同じクラスだった。それを知ったとき、僕らは喜んだ。新たな環境に不安があったし、なにより僕らは当時、周囲が呆れるほど仲が良かった。  だが、その喜びも数日で潰れてしまった。双子というだけで周囲の興味を引き、同じクラスとなれば尚更だった。中学一年という年ごろもあっただろう。入学後暫く、僕らは周りの好奇の視線に耐えなければならなかった。特に何かされたわけではないのだけれど、精神的にはだいぶん参る破目になった。  さすがに高校生となれば分別もあるだろうけれど、それでもトラウマというものは大きい。  早くも不安事項を抱えてしまった僕らは、暗い面持ちで体育館に入った。
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