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明くる日、夏侯淵の容態が急変した。
敵対国領土内での療養だった為、目立つ事は避け、今まで医者にかからなかったのだが、さすがの黄賀もここは医者に頼らざるを得ないと考えた。
夏侯淵が重苦しく言葉を放った。
「先日、一緒に落ち延びて来た息子の覇が怪しい男を捕まえたのだ」
「喋りなさるな。身体に触れますぞ」
黄賀が抑止するが、夏侯淵は止まらない。
「その正体は荊州の襄陽から成都に向けて放たれた援軍要請の間者だったのだ」
黄賀の顔から血の気が引いた。
今、荊州の樊城を蜀将、関羽が包囲し、魏王の一族、曹仁が窮地に立たされているのだ。
だが襄陽落城となると形勢は逆転する。背後を取られた関羽が死地に晒されるのだ。
「そこで覇に樊城まで使いを頼んだのだ。だが覇は間に合わないだろう。関羽は軍を必ず引くはずだ」
「そしてその先は……」
黄賀が口を挟んだ。
「関羽の命運、なんとみる?」
「敗北は必至かと」
やはり、と夏侯淵は口をすぼめた。
続く。
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