第六話

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「おそらく敗北した関羽は斬られる事を望みましょう。そうなれば蜀との関係は最悪となり、今はまだ小規模の内乱も大きくなるでょう」  夏侯淵は息を飲んでいる。 「ご子息が樊城に着く頃には曹仁殿も対応策に追われているところ。となれば、間違いなく関羽は挟撃されましょう」 「阻止する手立てはないものか?」  黄賀は頭を垂れ、暫く考え込む。 「……私が停戦調略をしましょう」  夏侯淵の眼は黄賀を捉えて離さない。  元々、夏侯淵は黄賀の政治官としての才能以上に、交渉術に長けた才能を見抜いていた。なるほど、黄賀の舌をもってすれば、あるいは……。  黄賀は荊州の出身で地理に明るいという。剣閣の渓谷には長江への支流があり、それを降れば驚く程早く荊州に着くそうだ。 「間に合うかもしれない」  かくして夏侯淵の一縷の望みは黄賀の双肩に託された。 「鮑先生、お願いします」  夏侯淵を医者に頼むと、黄賀はそれまでの踵を返し、荊州に向かった。  だが、その胸には一沫の不安が残っていた。 続く。
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