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「将軍、お懐かしゅうございまする」
「いや、よしなされ。もはや某は将軍ではござらん」
庵には臥せっきりの老人がただ一人。身体を起こす事かなわず横たわったままの応対だ。
黄賀は寝台の横に座して老人の顔を覗きこんだ。
それから二人は、懐かしそうに思い出話に明け暮れた。
黄賀は黄巾の混乱で名をあげ、その後は天下を揺さぶった呂布軍傘下、張遼の部下として地位を築いていた。
下ヒの攻防における落城の際に曹操の配下に加わる。二人の出会いはそこだった。
曹操の従兄弟として知られた夏侯淵とは、地位も立場も全く別であったが、だからこそか、無いものを求めあう二人の間にはいつしか強い絆が出来上がっていたのだ。
先年、漢中の定軍山で行われた激戦で夏侯淵は敵将黄忠により深手を負い生死の狭間をさ迷い、奇跡的に生還しここで療養しているのだ。
「恐らく魏王にはもうお目にかかれないだろう」
苦笑いに夏侯淵が呟く。
「気を落とされますな。傷に触れますぞ。魏王はいたく悲しんでおります。どうかいちはやいご復帰を」
黄賀は都から持ってきた薬湯を煎じ、介抱に努めるのだった。
続く。
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