一章

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くい、と手を引かれ、視線を頂上の見えない建物から、テールへ向ける。   ボサボサの茶色の髪、満面の笑みを浮かべる白い顔。手も足もひどく細い。顔立ちを見ると13・4歳だが、身長は120位しかない。   「ねぇねぇ」   「どうしたの?」   出来るだけ笑みを浮かべて尋ねる。 不安がってはいけない。テールの為にも。   「これって、雨だよね?」   「え?」   嬉しそうに言われて、意味が解らず聞き返した。   「私、雨に触るのって初めて! 冷たいって皆いうけど、そんなに冷たくないね!」   パラパラと落ちて来る滴を手で受け、それを楽しんでいる。   そうか、あの部屋から出た事が無いから、雨も風も音も空気も、全部が初めてなんだ。 キャッキャと笑い声をあげる姿に涙がこみあげる。   こんな生活じゃなく、普通の生活をしていたら、どんな子に育っていただろう? きっとたくさん友達が居て、外に出て活発に遊んでいたかもしれない。 もう、異性を意識する年頃だし、オシャレを当然のように楽しんでいただろう。   それなのに、それなのに…この子は、雨や風を初めてだと楽しんでいる。
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