一章

6/21
前へ
/99ページ
次へ
テールははしゃいでいた。もう、目まぐるしい位に。   それは凄く嬉しいのに、いつか追っ手が来るのではないか? とか、テールの話す言葉に、聞き慣れない『ID』と言う単語が混ざっているのが、酷く気掛かりでならない。 あそこに監禁される前は、IDなんて一部の会社か、金持ちの道楽でしかなかった。   それが今は一般市民にまで浸透している?   どれほどの年月をかけて?   ビルの窓ガラスに自分の姿が写る。 その姿は、解っていても25・6にしか見えない。   テールは13・4歳くらい。   テールが産まれたのは、監禁された直後だろう。   外は何もかも解らなくなる位時間が経過している。   テールは10数年の時間が経過している。   自分は、あの時から全く変わっていない。 それこそ、切ろうと思っていた前髪もそのまま。   駄目だ。 深く考えてはいけない。   不安が過ぎて恐ろしくなるから。 笑えなくなってしまうから。   テールの為にも笑っていないと。   細かい霧雨の中、テールと手を繋いでどれくらい歩いただろう。   テールが歌い始めた童謡に合わせて手を振る。   車みたいな乗り物はたくさんあるのに、人の姿は全くない。乗り物も、カラのまま走ってるのか、高いところを走ってるのかしかない。 外に出てから、人の姿を全く見ていない。   胸が苦しくなる位、何もかもが恐ろしい。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加