一章

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テールは「空が見たい」と満面の笑みで言った。   この建物から出れば見れる。 でも、やっと会えた娘の願いをすぐにでも叶えてあげたくて、軽く小さい体を背負って走った。 捕まると厄介な警備ロボをかわし、まっすぐに、外に向かった。 建物の構造は単純で、自分一人ならすぐに出られた。でも、それじゃ意味がない。   本当はもう一人……いや、あの人なら大丈夫だろう。   あそこに居る時はテールの事を考えていれば、不安なんか感じなかった。   娘が生きて、元気なのは知っていたので、それだけで良かった。       今は、何も考えられない。       空を飛び交うのは、カラスや虫ではなく、タイヤのない車のような乗り物。 そびえ立つ建物は、どんなに目を凝らしても頂上が見えない。霧雨で靄がかっているとか、そんなのは関係ない。 本当に高い、高い建物しかない。 道を歩く人は、さっきから一人も見ていない。店らしい物も見当たらない。 整然と、ぎっしりと並んだビルと広い道路。街路樹。空のゴミ箱。空の綺麗なベンチ。無意味に思える信号。 そんな物しかない。   一体…これは、どういう事…?   不安で足がすくむ。   こんな光景見た事ない。知ってる世界じゃない。一体、何年あそこに閉じ込められていたんだろう?
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