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旅人は、楽園か、とかまきりの言葉を反芻します。
「もしかしたらそうかもしれないね。星が本当に綺麗だし、澄んだ空気に満ちている。だけど、ずっといるにはここは少し寂しすぎる気がするよ」
旅人は、岩棚の続く地平線を見つめながら言います。
星の明るさで、遠くの山の端がうっすらと黒い輪郭を表していました。
星のかまきりは少し黙り、そうだね、と言いました。
「少しだけ寂しいよ」
星を見上げ、そう呟きました。
「それは何だい」
旅人が指を指して尋ねました。
星のかまきりの座っている場所の少し後ろ、岩場の陰に小さく土が盛り上がっていました。
土の小山のてっぺんには、手触りの良さそうな石が1つのっています。
「そこには女の子が1人、眠っているんだ。もう随分前の話さ」
かまきりはそっけなく言いました。
「君の友達かい?」
「今はもう違うよ。彼女は死んでしまったからね」
「巻き込まれたのかい」
「僕の周りは争いばかりだ」
かまきりは大して残念そうでもなく、ただ少しだけ肩を竦めて言います。
「慣れっこさ」
そうして旅人に向きなおり、訊きました。
「君はどうして、ここに来たんだい?」
旅人は少し迷って、結局答えました。
「ごめん。旅人というのは嘘なんだ」
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