* 嘘が上手くなるたびに *

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      *** 『俺、嘘は嫌いだから』 付き合い始めの頃に、アキがあたしに言った言葉。 嘘が嫌い。 好きな人なんていないよ。 あたしだって嫌いだもん。 それは普通のこと。 だからあたしは―― 『うん、あたしは嘘をつかないよ』 安易に交わした約束。 アキに好かれたくて 嫌われたくなくて 簡単なことだと、アキの言葉の意味を深く考えなくて あたしはアキを真っ直ぐ見つめて言った。 『約束だよ?付き合い出して初めての約束。二人で守ろうね』 アキはあたしの心を探るようにあたしを見て、右手の小指を伸ばして差し出した。 指切りげんまん。 18才の男子が、まさか真剣な面持ちで指切りげんまんを求めてくるなんて、初々しくてまた一つアキを好きになった。 応えるようにあたしも右手の小指をアキの小指に絡める。 『指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲~ます、指切った』 幸せだった。 君を笑顔に出来たから。 君の笑顔を守れると思っていたから。 だけど―― あたしはこの時、既にアキに嘘をついていたんだね。 『嘘はつかないよ』という嘘を……  
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