* 嘘が上手くなるたびに *

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「ゆん」 「アキ先輩」 「ゆん」 「アキ先輩」 「ゆん」 「も~ぅ、いつまで続けるの?」 アハハと笑うアキを、殴る真似をするけど殴らない。 本当は"ゆん"って呼ばれることが嬉しいから。 現にあたしはアキに"ゆん"と呼ばれるだけで笑顔になれた。 「だってゆんの名前好きだから」 「えっ?」 20センチ上にあるアキの顔を反射的に見たけど、あたしは直ぐにアキから視線を逸らした。 だってアキは、あたし自身じゃなくてもあたしの名前を好きだと言った。 あたしを見て好きだと言った。 もしもそのままアキの顔を見ていたら、きっとあたしは「もしかして」って誤解してしまいそうだったから。 するとアキは―― 「ゆんもゆんの名前も好きだよ。大好きだ」 好きって言葉を連呼する。 何度も何度も。 だけど決して「付き合おう」って言葉を口にはしなかった。 どうして?  
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