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「ほらよ、駅弁」
ふと聞きなれた声が頭上から聞こえた。頬杖していた姿勢から顔を声のしたほうに向ける。そこには、寺門明樹(てらかど あき)がいた。
「ありがとう」
隼人は明樹から駅弁を受けとった。四角い形の至って特徴のない箱だが、蓋をあけてみるととても美味しそうな具がたんまりと飾られていた。
明樹も隼人の正面に座り、弁当を食べ始めた。明樹は元ボクサー志望の男で、その名残かタンクトップがよく似合い、細身だが筋肉質の体つきをしていた。
だが、彼のそのボクサーの夢も「奴」に奪われた……。
隼人もスーツのネクタイを少し緩め、弁当を食べ始めた。
……美味い。 時計も12時を回り、食べ物を欲していた体が濃厚な味わいの具を抵抗なく受け入れる。
「……そろそろだな」
明樹が外の景色を見、缶のお茶を飲みながら独り言のように言った。
隼人も小さなペットボトルの水の蓋を開け、ごくりと一口飲んだ。
「ああ……もうすぐ東京だ。来るのは1年ぶりだが、今回の目的は前のときとは違うぞ」
「わかってるよ。今度こそ……今度こそアイツに一泡吹かせてやる」
明樹の言葉からはっきりと「奴」に対しての憎悪が感じられた。缶を握る手に力が入るのを隼人は見た。
「ひとまず活動拠点になる場所は抑えてある。東京についたらそこに行こう」
隼人の言葉に明樹は力強く頷いた。
……待ってろよ、駿。
お前の仇は必ず取る。
その為なら俺は、鬼にだってなってみせる。
隼人は首にかけた小さな写真が入るネックレスを握りしめた。
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