‡開幕‡ 少年ノ見タ悪夢。

2/6
119人が本棚に入れています
本棚に追加
/243ページ
‡‡‡‡‡‡‡‡ 「ふふ、貴様が死ぬのはこれで二度目だ。いいかい、三度目はないと思え。出来損ないの哀れな命よ」  黒い長髪と闇色のロングコートを夜風に靡かせながら、ブーツの踵でグロテスクな異形の頭蓋を少女が踏み砕いた。  白い肉を無理矢理人形に固めたようなモノ、異形。全体的に見ればそれはヒトガタであったが、個々のパーツを見る分には異形としか表現のしようがなかった。その顔は、前を向いているようで後ろを見ている。伸ばされた手腕は、そもそも左右を間違えてはいないだろうか。というか、動くたびに体の一部がぼとりと滴り落ちるのはおかしいだろう。生物として、何かをはき違えている。  そんなものが。この世のものとは思えないそれがだ。あっさりと、少女の踵で踏み潰されて、おぞましい赤と白でアスファルトを汚し、ゆっくりと吸い込まれていった。頭部から胴体へと、腐敗を早送りするように溶けてゆく光景。  高校から帰る途中だった。マンホールからなんて、反則だろうと思った。すぐに逃げればよかったのだが、少年、朽葉宵里(クチハショウリ)は情けないことに腰が抜けて、足首を氷のように冷たい歪な手に掴まれた辺りから意識が飛びそうになっていたのだ。  夢だと思った。しかし、それはそうあって欲しいという願望に過ぎず、これは紛れもない現実だった。
/243ページ

最初のコメントを投稿しよう!