‡開幕‡ 少年ノ見タ悪夢。

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 アスファルトには、もはや何も残っていなかった。白い肉片も。血の一滴すら。  しかし、視界の奥に見えるマンホールの蓋は外れていた。それが、ひっそりと現実性を主張しているようで、恐怖が拭いきれない。  そんな風に宵里が一人で酷く狼狽していると、突然現れては異形を踏み砕いた少女が振り返った。ロングコートがまるでドレスのように翻る。明らかに、サイズが合っていない男物だ。 「怪我はないな、少年」  年齢も宵里とさして変わらないであろう、下手すれば年下にも見えなくもない少女に少年と呼ばれた。内心ショックである。  それはともかく、特に怪我はしていない。 「うん、大丈夫……だと思う」  心には深い傷が残ってしまいそうだが。 「それは何よりだ」  満足そうな声と共に酷薄な微笑を刻みつつ、少女は宵里を見下ろすところで立ち止まった。明滅する街灯が、少女の影を怪しく落とす。それは丁度、宵里にかかるように。  その立ち姿は、綺麗だった。もしも宵里が絵筆を握るような仕事をしていたなら、一幅の絵画として間違いなくキャンバスに納めようとしたに違いない。
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