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眼前にいるのは、言葉で表現することが愚かしいとさえ思える美と、威風堂々の調和だった。
そこに存在するだけで、自然と膝をついてしまう威圧感。まるで、世界を従える絶対者の貫禄。そして、夜空の月すら霞みがかる、真の美貌。
その少女がこの世界に存在するということ自体が、深い疑問であるとすら思えた。
何かを計り、品定めをするように向けられていた、女王の視線。まるで深淵を掬い上げたかのような漆黒の瞳が宵里をまっすぐ照準したかと思うと、桜色の薄い唇が再び開かれた。
「時に少年。貴様は、この私がいなかったらどうなっていたか、分かるかい?」
貴様呼ばわりされた。初対面で。しかし、状況が状況で気が動転していたが、礼儀を欠いていたのは自分だったと、宵里は慌てて応える。
「ご、ごめん。その、ありがとう……」
辛うじて語尾が疑問形になるのを避けることができた。しかし、少女の言葉は少なからず宵里にとっては予想外だった。
「礼なんていらないんだよ。私が訊いたのは、貴様がどうなっていたかだ」
「……死んでた……?」
息が止まりかけながらも絞り出した言葉に、少女は口角を吊り上げた。
「だろうね。十中八九と言わず、十は死んでたさ」
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