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少女は何気にさらっと酷いことを言いながら、アスファルトに片膝をついた。宵里が若干見上げる形になりながら、少女は続ける。
「つまりだ。貴様の命は、本来散る運命にあったわけさ」
少女の顔は、宵里の眼前にまで近付いていた。互いの吐息が当たってしまうくらいに危うい距離。これほど間近に見た女性は、少女が初めてだった。
「そして、それを私が拾ったわけだ」
沈黙があった。それは、まるで宵里に言葉を求めるような間でもあり、一種の挑発のようだった。
渇いた喉から、慎重に言葉を選ぶ。
「何が、言いたいんだ……?」
その質問により一層喜色を深め、少女は笑った。不敵に、素敵に。
「この私に────飼われろ」
ぺろりと、少女の舌が宵里の鼻の頭に触れた。その感触はやけに淫靡(インビ)で、妖艶でもあった。二つの大きな瞳が、真っ直ぐ宵里の両目を捕らえていた。唾液に濡れた鼻先が、夜風に冷える。
「そん……な、こと……」
できない。そう答えようとして、宵里は反論しかけた口を塞がれた。少女の顔が、ぼやけるほど近くにあった。
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