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「綺麗ね」
夜景を眺めながら彼女は言った。
大成<たいせい>は夜景ではなく彼女を見つめていた。
「本当に綺麗だ」
大成が言った。
口をあんぐりと開けてぼーっとしながら、交際相手である京美<ことみ>のことを想った。
「ねぇ」
京美がこっち向いたので、急いで視線を逸らした。
大成が見た先は、きらびやかに輝いている遠くの街の光のその下の海だった。
通称―海の見える丘―
大成が1ヶ月間走り回って探した場所である。
人通りが少ない山道で海も夜景も見える穴場のスボットだった。
大成は前にある策によっ掛かった。
この下は絶壁で海の浅瀬である。
それが見えないほど辺りは暗かった。
大成は後ろに停めてある車を気にした。
いつ、どのタイミングで渡すか。
大成の車には薔薇の花束があるからである。
大成は今日、京美にプロポーズをするつもりなのである。
二人は異邦人との交流という共通の趣味を持っていた。
そしてその趣味が二人を引き合わせた。
(今しかない)
そう思い、京美の手を握った。
「京美?」
「何?」
「ちょっと話したいことがあるんだけど、待っててくれる?」
そう言って車の方に走った。
「できれば目をつぶっていてくれる?」
京美を驚かせたかったのだ。
車に戻りドアを開けた。
助手席から体を伸ばし、サイドボードを開けた。
中には真っ赤な薔薇の花束が入っていて、立派な包装が巻いてあった。
半ドアのドアを足で蹴っ飛ばし、頭をぶつけないように低い姿勢のまま車を出た。
「ドカッッ」
鈍い音が出た。
そして大成はそのまま倒れ込んだ。
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