ペクチョ村

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薄暗い石の牢屋に一灯の明かりが灯った。 「大成、夕食よ」 リーが盆に乗せた夕食を持ってきた。 大成は返事を返さなかった。 牢屋のポストから夕食を入れた。 しかし大成は手をつけようとはしない。 「しっかり食べないと!」 元気のあるいつものリーの気持ちいい口調だった。 「食べたくない」 大成はぼそっと言った。 「見るからにやつれてるじゃない。ウォンが一生懸命作ったの」 それでも大成は食べない。 「まあ、言いわ。それよりもあなたに伝えたいことがあって、来たの」 大成は全く聞く気がなかった。 「ローズは無事よ。パクも何も問われなかった・・・」 「・・・」 「あなたたちの犯罪ってことで終わったわ。でも二人も協力したんでしょ?」 「・・・」 「ライントンは行方不明。総書記宅侵入の罪で、最重要指名手配犯に指定されたわ」 「・・・」 「京美は・・・」 「京美は!・・・京美はどうしたんだ!」 大成が急に立ち上がり、勢いよく聞いた。 「無事よ」 大成は力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。 「よかった・・・」 「将軍の夫人として手厚く保護されているわ」 「俺はもうすぐ死刑だ。京美が安全に暮らしてゆけるなら、それでいい」 「そんなこと言わないの」 リーがバシッと言った。 「私はあなたを拉致した側の人間だから何も言えないけど、もし生きてここを出られたら・・・」 沈黙・・・ 「まだ鉄格子は取ったままよ。困ったことがあるならいつでも来て・・・」 「ありがとう」 「あなたに幸あれ・・・」
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