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「釈放だ」
ウォンは牢屋の鍵を開けた。
大成はわからない顔をしている。
ウォンがこっちに向かってきて大成の両手に手錠をかけた。
「来い」
二人は薄暗い廊下を歩いた。
拘留所は他に誰もいないようだった。
突き当たりには階段があり、段数は少なかった。
階段を上がると大成は久しぶりの日光に目が眩んだ。
「連れて来ました、少佐」
そこには背の高いスーツを着た男が立っていた。
「外してろ」
男はウォンにそう命令を出すと、大成を机の側に座らせた。
「君は運がいいな」
「いよいよ死刑か?」
「まあ、まずは挨拶といこう。私の名前はワンだ」
ワンは手を差し出した。
しかし大成は応じなかった。
「殺すなら、さっさと殺せ」
「ナツムラ・・・せっかく救われた命を無駄にする気か?」
そう言って一枚の紙を取り出した。
「釈放命令書だ。寛大な将軍様が書いてくださったよ。なんでも夫人の一人がお前の身を一生懸命案じてくれたようだ」
それが確定していないにも関わらず、大成は京美が助けてくれたのだと思った。
同時に大成のやったことを知ってしまったことを意味しているのだと悟った。
京美を助けるつもりだったが、逆に助けられた。
そんなふがいない自分に腹がたったのだ。
大成は机をおもいっきり叩いた。
「無礼な・・・二度救われた命を粗末に扱うなんて」
ワンは冷酷に言い放った。
「君の処置の決定権は私にある。こんな事件を起こして、ピョンヤンにいられると思うなよ。異邦人収容施設に幽閉するつもりだったが、今の態度を見ると・・・・・君は生き地獄を味わえ」
ワンは乱暴に手錠を引っ張り、外へ出した。
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