海の向こう

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誰かが入ってきた。 出入りはこれで五回目。 大成はしかめっ面をしていた。 さっき殴られた時に鼻をやられた。 そのおかげで鼻血がポタポタごぼれていたからである。 殴られたことを教訓にしてじっとしていた。 すると地面が揺れ、その振動で大成は横に倒れた。 上の方から声がした。 例の大成の理解できない言語だったので聞き流した。 しかしその命令口調の会話が終わると、近くにいた見張りの動きが活発になった。 辺りを二、三往復して大成の隣にきた。 目隠しされているので何をやっていかはわからないので、耳で聞き分けた。 耳を済まそうと意識をそっちにやった時、上から何か被せられた。 手を縛られているので抵抗できなかった。 すると大成は再びあのむかむかするような匂いを感じた。 この匂いで何をされるかわかった。 次の瞬間、大成は頭から袋を被せられた。 袋の中は大成の体積は充分に満たしていたが、身長が丸々入るほど細長くはなかったので、大成は袋の中で長座体前屈をする形になった。 大成が袋に入り切った後、見張りは乱暴にそれを持ち上げた。 そしてリュックサックのように付いている紐に肩をかけて担いだ。 見張りはドアを開けて、上に通じる階段を上った。 昼に出発したのに、もう夜空で星が瞬いていた。 母国の冷たい風が肌に当たる。 大成の見張りが甲板に出た時、四人はすでに陸地への梯子をかけていた。 その近くには大成が入っている袋と同じものが置いてあった。 もちろん中身は京美である。 「じゃあ上陸だ」 ウォンがそう言うと自らを先頭に梯子から降りる。 後の四人もそれに従い降りる。 最後尾の二人。イヒョンとさっきウォンに殴られた若い男が袋を背負っていた。 数分で全員が上陸すると、ウォンが誇らしげに言った。 「おぉ懐かしき祖国よ」
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